学校での日々の実践や先生方との対話を振り返ると、探究学習の真の出発点はいつも子どもたちの「ふとした一言」や「夢中になる姿」にあると痛感させられます。
大人があらかじめ用意した計画(設計図)通りに進めることだけが探究ではありません。子どもたちの自然なつぶやきや興味を丁寧に拾い上げ、そこから学びをどう広げ、深めていくか。今回は、各学年の最近の記録から見えてきた「子どもの声からはじめる探究」のリアルなプロセスをご紹介します。
1・2年生の学習では、子どもたちの「やってみたい!」という衝動が学びの原動力になっています。
物語『スイミー』をきっかけに始まった「海」の探究では、子どもたちから「すずらんテープを使って海を表現したい!」というアイデアが飛び出しました。青だけでなく黒を使って「深海」を表現する子もいれば、新聞紙やネットを使って大好きなサメの観察にはまり込む子もいます。
「海ってどんな色をしているんだろう?」という問いから、絵本と実際の海の違いをディスカッションし、図工や音楽(オペレッタ)、国語(物語づくり)と教科を横断しながら自分たちの表現へ落とし込んでいく。設計図がなくても、子どもたちのワクワクが活動をどんどん推し進めていきました。
また、後期の「今を一緒に生きる」というユニットでは、ヤギのルカとの交流が大きなテーマです。 「ヤギとふれあいたい」「お世話をしなきゃ」という気持ちからスタートした活動ですが、繰り返し関わる中で、子どもたちの意識は変化していきます。単なる「世話(独りよがりな思い)」から、「ヤギからも愛情をもらっている」「僕たちも生かされている」というお互いの幸せへの気づきへ。子どもの素直な感性が、相手を思いやる深い探究へとつながっています。
3・4年生では、子どもたちが「秘密基地」や「スペシャルカー」を作りたいと言い出したことから、磁石や電池、モーターといった科学の原理を活用したおもちゃ作りに没頭しました。
子どもたちが時間を忘れて手の中で工作を作り上げ、保護者の皆さんにオンラインで発表する姿は非常に生き生きとしていました。しかし、教師側にはひとつの問い(悩み)が生まれます。
「夢中になって友達の真似で作ったけれど、これは単なる工作で終わっていないだろうか?」 「『夢中になったから成功』と言えるのだろうか? もう少し大人が介入して、問いを投げかけるべきだったか?」
一見、子どもの声から始まって成功したように見える活動でも、「1・2年生の時との違い(より深い視点)」をどう生み出すかという葛藤が生じます。子どもの「やりたい!」を尊重しつつ、大人が「どんな原理があるのかな?」「相手はどう受け取るかな?」と適切な足場かけ(スキャフォールディング)を行うことで、単なる遊びから一歩深まった「知的な探究」へと昇華されていくのだと感じます。
5・6年生になると、子どもたちの声は「クラスの決定」や「合意形成」という高度な話し合いの中で生き始めます。
修学旅行の行き先や、台湾からの交流生を迎える歌を決める話し合い。時には意見がぶつかり合い、妥協ができない局面もありました。しかし、子どもたちは自分たちで定めた「話し合いのルール」に立ち返りながら納得のいく結論を導き出しました。
誰かに指示されたからやるのではなく、「自分たちの声で決定し、自分たちで責任を持って取り組む」。これこそが国際バカロレア(IB)で大切にされている「エージェンシー(Agency)」の姿です。
自分たちの話し合いがなぜうまくいったのかを振り返り、「合意形成」や「価値づけ」といった概念として残していくことで、その経験は他の場面(世界)へも応用できる力(転移)へと育っていきます。
IB(国際バカロレア)のPYP(初等教育プログラム)は、決まった教材や答えがあるものではなく、学校や目の前の子どもたちに合わせて作り上げるフレームワークです。だからこそ、教師の力量や「見取る力」が問われます。
探究は、決して子どもだけに任せ切るものでも、教師が一方的に引き回すものでもありません。
子どもが発する「ワクワク」や「つぶやき」を拾い上げる
教師が適切な問いや教材で「足場かけ」をし、より深みのある方向へ導く
接近(個々の事実)と俯瞰(抽象的な概念)を行き来する
この両者のやり取りがあって初めて、世界に通じる本質の学びへと繋がっていきます。
子どもたちの「声」に耳を澄ませることから始まる探究。雪が降る頃には、子どもたちがどんな言葉で自分たちの「学び」や「生き方」を語ってくれるのか、今から楽しみでなりません。